最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)1477号 決定 1951年3月29日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人桑名邦雄の上告趣意第一点について。
所論のように、たとい、被告人の勾留が不当に長きに失し原裁判が迅速を欠き憲法三七条一項に違反したとしても、そのことは原判決に影響を及ぼさないこと明瞭であるから、上告の理由とすることができないと解すべきことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)一〇七一号同年一二月二二日大法廷判決、判例集二巻一四号一八五三頁以下)の趣旨とするところである。また、控訴趣意書提出後も被告人の勾留を更新したことが、かりに、所論のように正当の事由がないものであって、憲法三四条の規定に違反したものであるとしても、これまた、原判決に影響を及ぼさないこと明白であるから、上告の理由となすことができないと解すべきことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)六五号同年七月一四日大法廷判決、判例集二巻八号八七二頁以下)の趣旨とするところである。されば原判決を以て所論憲法の各規定に違反する旨の論旨はとるをえないから、刑訴四〇五条所定の上告適法の理由にあたらないし、同四一一条を適用すべきものとも認められない。
同第二点について。
論旨は原判決の訴訟法違反を主張するものにすぎないから、明らかに、刑訴四〇五条所定の上告適法の理由にあたらない。そして所論の刑訴四九五条に定める未決勾留日数は判決が確定して本刑の執行される際当然に全部本刑に通算されるべきものであって、原裁判所には右日数を本刑に通算するか否かの裁量権が委ねられてないのであると解するを相当とするから、原裁判所が右日数を本刑に通算すべき旨を言渡さなかったことは当然であって、毛頭違法ではない。されば論旨は訴訟法違反の主張としても、とるをえないものであるから、刑訴四一一条を適用すべきものとも認められない。
同第三点について。
しかし、所論の被告人の前科の点については、第一審判決に「・・・・・・被告人は昭和二三年九月一四日東京地方裁判所において窃盗、詐欺罪により懲役一年(五年間執行猶予)に処せられ右執行中・・・・・・」と判示していること判文上明白なところであるし、控訴趣意には所論の点に関して何等主張されていないこと記録上明らかであるから原審が所論の点について判示していないのは当然である。されば、原判決を目して所論の当裁判所の判例に反するとなす論旨は判示にそわない事実を独断し、これを前提とするものであって、とるをえない。しかのみならず、本件は所論の当裁判所の判例の場合とその事実関係を異にし、従って原判決は所論の判例に反する法律乃至事実上の判断を示していないのである。されば所論判例違反の論旨はいずれの点よりするも、刑訴四〇五条二号の事由に該当しないし、また、同四一一条を適用すべきものとも認められない。
同第四点について。
論旨に縷述するところは、要するに原判決の是認した第一審判決の事実認定を非難するに帰し、明らかに刑訴四〇五条所定の上告適法の理由に該当しないし、また記録を精査するも本件は原判決を破棄しなければ著しく正義に反する場合とも認められない。
よって刑訴四一四条、三八六条一項三号に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)